アラサー新人期間工のお父さん

借金返済と生計を立てる為にトヨタ期間工への扉を叩いた一児の父の雑記

お刺身にたんぽぽを乗せるが如く

前日にぬるま湯のような作業工程を見学して1日を終えた私はウキウキで翌日のバスに乗っていた。
「今日から作業訓練かぁ〜こりゃ満期満了楽勝かな」なんて脳内お花畑な私はちゃっちゃと着替えを済ませて現場に向かう。

組長から「今日から少しづつ覚えようか」と言われ同じ工程の先輩から作業を教わることに。
この先輩というのが今月いっぱいで退職になり、代わりに私が欠員補充として配置されるわけだ。

聞けば私より年下の彼から簡単に説明を受けた。
詳しくは書けないがざっくり一連の作業を書くと

・車のドアにシールとガード(プラスチックのクリップのようなもの)を取り付け

・車のボンネットにシールを貼る

・車のルーフにシールを貼る

を繰り返すというものだった。

ボンネットとルーフは2人で行う作業の為息が合わないとラインの速度に追い付けない為まずはドアにシールを貼ることから始まった。

テープカッターからテープを取り出しドアに延々とシールを貼る。
これが中々難しい!見栄えが悪くなるためシワや気泡が入らないようにビシッと貼り付けるのがミソの為慣れないうちは剥がしては張り直しを何回も繰り返していた。

一方で教育してくれる先輩はというとわずか10秒ほどでこれをこなしていた。
簡単そうに見えるが手際は神業と言える速度でありこうなる為に一体何日かかるのだろうかと不安になった。

だがそんなことを半日も繰り返すと慣れてくるのか結構うまいこと貼り付けることができてきた。
ちょっと調子に乗った私に先輩が言う。

「じゃあここに時計あるんで時間測りましょうか」

デジタル時計を私の脇に置き、テープカッターに手を出した時点でスタート、ドアにガードを取り付けてドアを閉めるまでの時間を見ろとのことらしい。

楽勝楽勝と時間を意識して手際良く(と自分は思ってる)作業をする。
バタン、とドアを閉めて時計に向き直るとかかった時間45秒。

先輩「あ〜、これだとタクトこなせないですね」

は?と思った。
張り直しもせずに持てる最高速度を叩き出した私ににこやかな笑顔で彼は言った。

聞くと1台あたり凡そ90秒の時間でこの作業に加えボンネットとルーフにテープを貼り付けるため、ここで半分以上時間を使うとどうやっても間に合わないらしい。
だから大体30秒を目標に、ただ最終的には20秒切ってくださいと言われた。


無理に決まってんだろ


まずテープカッターからテープを2枚取り出すので早くて3秒、そこから1枚目を貼り圧着するので10秒、さらにドアを開けて2枚目を貼り付けてガードを取り付けてドアを閉める。これで15秒は見積もる。
どうしても30秒弱はかかるだろ!と思い一心不乱に作業を繰り返す。
数時間やり1番早くて32秒。
たったこれだけの作業で凄い「やった感」がある。

それでも先輩は「あ〜」と苦笑いだった。
まぁ、慣れるまではかかりますよ、とフォローされたが正直これより早くすると何かしらの手順をすっ飛ばす必要がある。

そう、私は無駄な動きが多いのだ。
テープを貼る時もしっかり場所を見据えて1呼吸置いて貼る→丁寧に圧着→目視確認とマニュアル通りに作業していたらどうしても間に合わない。
つまり、これは息をするより早く感覚に近い形で文字通り一瞬で済ませなければいけない。
入社したての私にそんな事ができるかと言ったら無理なのである。

なんせ散々「標準作業で手順通りにやってね」と言われたから。

妥協というのは慣れてからするものだからね。
そんなこんなで1度も32秒を切る事が出来ず定時で終了。
体は疲れてないが精神は疲労困憊だった。
その日は寝る前に何度もシャドーボクシングならぬシャドー作業を繰り返してから眠りについた私でした。